大津地方裁判所 昭和33年(わ)141号 判決
被告人 宮崎キヨ
主文
被告人を懲役六月及び罰金三万円に処する。
本裁判確定の日より三年間右懲役刑の執行を猶予する。
右罰金を完納することができないときは、金二〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、大津市馬場町二番地の二九において、小料理店「千両」及び同市丸屋町三四番地において小料理店「おかめ」を経営している者であるが、昭和三三年四月下旬頃より同年六月二四日頃までの間、継続して行う意思のもとに左記記載のとおり前後一一回に亘り売春婦である西岡高子(満二〇年)外三名が、それぞれ不特定の客である鷲田斐外六名を相手方としてその対償を受けて性交するに際し、その相手方よりそれぞれ右性交の対償金のうちから約金三〇〇円乃至金五〇〇円位をサービス代と称して徴し、右「一千両」及び「おかめ」の部屋を各貸与し、以て売春を行う場所を提供することを業としたものである。
別表
番号
年月日
提供の場所
売春婦氏名
相手方
被告人の取得額
1
昭和三三年四月二八日頃
千両の二階
西岡高子
鷲田斐
五〇〇円位
2
同月三〇日頃
同
同人
小野田正三
同
3
五月五日頃
同
大石京子
吉岡芳一
四〇〇円位
4
同日頃
同
平本文代
奥長重計
同
5
同月一七日頃
同
西岡高子
川崎忠一
五〇〇円位
6
同月下旬頃
同
同人
鷲田斐
同
7
同月二六日頃
同
五十嵐美子
弘瀬和弥
三〇〇円位
8
同月三〇日頃
同
同人
川崎忠一
同
9
六月二日頃
同
西岡高子
前川利郎
五〇〇円位
10
同月九日頃
同
同人
同人
同
11
同月二四日頃
おかめの二階
同人
鷲田斐
同
(証拠の標目)〈省略〉
(法令の適用)
法律に照すに被告人の判示所為は、売春防止法第一一条第二項、罰金等臨時措置法第二条第一項に該当するところ、その所定刑期及び罰金額の範囲内において、被告人を懲役六月及び罰金三万円に処し、なお諸般の情状に鑑み、右懲役刑にかぎり執行を猶予するのを相当と認め、刑法第二五条を適用し、本裁判確定の日より三年間その執行を猶予し右罰金を完納することができないときは、同法第一八条に従い金二〇〇円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置すべきものとする。
なお、弁護人は本件犯行は、単に売春を行う場所を提供したものにすぎないのであつてこれを業としたものではないから、売春防止法第一一条第二項によつて処断すべきものでなく、同条第一項によるべきである旨主張するのであるが、これについて考えて見るに、同法第一一条第二項は、従来の娼家的型態の廃絶を企図していることは勿論であるが、その娼家型態から換骨奪胎した変型的な売春幇助行為のうち、場所の提供を営業としたものを処罰の対象としているものであることは明らかである。
よつて、これを本件について見るのに、被告人は自家に雇用中の給仕婦または、かねてより売春を希望していた知り合いの女性等の売春行為に際し、自家の小料理店の二階を提供し、これを以て自己が経営する小料理店への客の誘引方法としたものであることは被告人の検察官に対する供述調書によつて明らかである。そして性交の対償金に加えてサービス代の名目を以て、相手客より一回につき金三〇〇円乃至金五〇〇円位を徴し、これを反覆継続していたのである。これがその業としたものと解すべきか否かが本件の関鍵である。勿論、同条第一項及び第二項の区別は、その回数のみを以て直ちにその区別の基準となすべきでないことは明白であるにしても、少くも第二項は営業犯に対する取締規定であるから、営業犯としての要件を具備してさえおれば足りる。即ち営利心を以て反覆継続して行う意思の下になされたものであれば、これを以てその要件は具備されたものと解しなければならない。されば自己の経営する小料理店への客の誘引方法としてなされた本件行為の如きは、いわばその小料理店の附随的業務であつたものとも言い得る。従つて被告人の右行為は、営利心を以て反覆継続して行う意思の下になされたものとの要件は優に具備されているものと認めねばならない。言うまでもなく同条第二項は、業とすることが、主たる業務とする場合のみをその取締の対象としているものと解する必要はなく、本件行為の如く附随的業務であつても、営業犯としての要件を具備する限り同項の取締の対象と解すべきである。反面、主たる業務が正当の業務として、保護せらるべき筋合のものであつても、此の理に変りはない。
同条第二項の解釈として、「場所を提供することを業とした云々」として規定せられている文例は、「業として…………何々をする」旨規定せられた文例とその意を異にするから、同条第二項は売春を行うための特別の設備を備えたり、或は売春を行う場所の提供が、営業の重要な一部となつていることを要件とするが如く説く者もあるが、同条第二項は、前説示の如く、営業犯に対する取締規定であるから、営業犯としての要件以外、かかる特別の要件を要するものと解する必要はない。右の理由によつて、弁護人の前記主張は採用しないこととする。
よつて主文のとおり判決する。
(裁判官 西村実太郎)